AIと面接

<細井智彦> 細井智彦事務所代表 転職コンサルタント 大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。企画し立ち上げた面接力向上セミナーは12万名以上が受講する人気セミナーとして現在も実施中。採用企業の面接官向けにも研修・講義を開発し、人事担当から経営者まで、260社、面接官3000人以上にアドバイスをしている。2016年3月に独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数


AIって聞くとなぜかどんよりしてしまう

「AI」と聞くとみなさんはどんな感情を抱かれるでしょうか。ワクワク?というより、なんかちょっとどんよりとした感情を抱く人も多いのではないでしょうか?特に「雇用」と絡みだすと、「AIで仕事がなくなる!?」「いやAI化が進んでも人でなければできないことは多い!AIでなくならない仕事も多い!」というような反応で「来るべきAI時代に備えていまから心がけておくべきこと!」なんて脅し系のコメントが出てくるように思います。AIに限らず、人は未知のもの、変ることに無条件に発生する畏れのようなものを抱くのでAIもそう思われやすいのかもしれませんね。

面接とAIの相性はよいはずだが・・・AIがあぶり出す面接の問題点

そんなAIが採用選考でも導入されたらどうなるか。すでにエントリーシートの選考などで導入している会社もでてきているようですが、少なからず採用選考の場面でもビッグデータに基づくAIの導入は進むと思います。AIのもつ「過去のビッグデータから未来を予測する」という側面は面接で行われていることそのものだから、本来親和性はかなりあるはずです。ただ、それはひと筋縄ではいかない、新しいものへの漠然とした抵抗感以外にも気になることがあります。

収集されるビッグデータの倫理性

「過去のビッグデータから未来を予測する」という手法で、あらゆる働く人の様々な行動記録を集めることができたなら、そこから未来を予測することは技術的には可能かもしれません。ただ、未来を予測するために必要なビッグデータとはどんな情報か、というところに大きな課題があると思います。そしてAI化のために必要な情報について考えることが、いみじくもいまの面接選考の課題を表面化させることになるのではないか、と思うのです。例えば、いま選考場面では、候補者の職務遂行能力を測るために不要な情報のヒアリングは控えるようにするのが行政の方針です。居住地、家庭環境からはじまり、好きな雑誌とかも聞くことはふさわしくない、とされています。あくまでも学業やバイトとか社会人としての職業行動を判断材料にすべし、という考え方です。しかし、過去の行動が未来を司るという考えでAIを進めると、それは自ずと最終学歴の学生生活やキャリアの情報だけではなく、候補者の行動すべてが収集データの対象になるのではないでしょうか。つまり、いつ起きて、何を食べて、どんなレイアウトの部屋に住んで、家族や友人はどんな人間で、どんな会話をしているか、というような生活情報もキャリアの情報に結合され、予測材料となるビッグデータにされるということが考えられます。つまり、未来を予測しようとすれば、コンプライアンス的にとてもデリケートなことになるということです。実は、これはすでにいまの面接選考でもある課題です。

グレーゾーンの意味と価値を認めろ!

さらに、根源的なことを言えば、いままでのことを全てさらけることはできないし、それがよいとは限らないということも、理解しておかなければなりません。人には自分だけの秘密にしておきたいことや、変わりたいと思い臨む新しいステージでは伏せておきたい過去もあります。それをAIが全部あばきだし、未来を断定してしまう、なんてことになるとしたら、みなさんはどう思われますか?
虚偽によって騙すことはよくないけど、偏見につながるような余計なことは面接であえて話すことはない、なんてことはありますし、実際、入社後活躍してくれさえすれば、それでいいという人や、さらに「入社したいがために、多少盛ってくる気持ちもわかる。どうせなら気持ちよく騙されたい」という面接官すらいます。現実の人間関係は、なんでもかんでもデータにしてオープンにすればいいってもんじゃないってことです。

機械に未来を決めつけられることを受け入れられますか?

「面接」というものが「企業が選ぶ」という目的をベースにして「選ぶ」が自動化されてしまう限り、つまり「機械に落とされてしまう」ことへの抵抗のようなものはなくならない、と思うわけです。しかし、よく考えたら、この「落とされる」感覚はなにもAIに限らず、人がやってる今の面接でもあまり嬉しいものではありませんね。この選ぶことが目的になりがち、つまり、選ぶことの効率化であり自動化に走ることが、AI化の最大の問題だと思うのです。

AIは平和利用に活かす!選ぶためじゃなく発掘するため、を目指すべき

大手人気企業の採用活動は大変です。膨大な応募者のなかから優秀な人材を選ぶためには大変な労力が費やされます。そして企業は「効率化」を追いかけるのでできるだけ、選別の効率を高めるためにAIの力を借りようとしたら、エントリーシートの選考を自動化させるという発想が生まれるわけです。 ただ、ここでの効率化は「選ぶ」ためだけではなく「発掘」する方向に向かって欲しいのです。つまり、ただ候補者の選別を自動化するのでなく、いままでは効率が悪いので対象としなかった層から効率よく発掘することに活かすのです。例えば有名校出身者がたくさん応募する人気企業なら、その候補者のエントリーシートを効率よく「はじくため」に使うのではなく、名もない高校を出てバイトで稼いでは放浪していて就活もろくにせず、エントリーシートの完成度もいまいちの候補者のなかから、活躍しそうな人を発掘して人事に提案してくる、というようなイメージです。
ある会社の人事の人と話していていまでも忘れない言葉があります。「いわゆるブランド校を出ている優秀な人材は自社でも集めることができる。エージェントにはそんな人だけじゃなく、我々が普段選考対象としない層、例えばトラックドライバーから活躍できる人を見つけて売り込んでくれるようなことを期待したい。」これは名言だなあと、まさにAIが目指す効率化はこういった従来ではなかなかありえない出会い方を創出する方向に活かして欲しいと思います。 いまのところ、AIはエントリーシートの選考ための効率化のために導入されているようですが、落とすばかりじゃなく、いままで秒殺していた人にチャンスが生まれるようなことも可能になればよいと願ってやみません。

AI化に先立って面接の世界観も変わって欲しい

「選別から発掘」思想はAI導入に関係なく、いま人が行っている面接でも取り入れて欲しいと思います。面接官が自分の欲しい人の型にはめて、合わなさそうなものを排除する、のではなく、入社後、どこでどんなマネジメントをすれば活躍できそうか、という視点で、いわば候補者の取説のようなものを作るイメージで「使えるか」より「どうすれば最大の効果を生んでくれるか」可能性を発掘しながら発掘型の面接を行うことが求められていると思います。 そしてAIが高学歴、有名企業を出ている人や、転職歴とかでしか選べない面接官にも可能性ある人材を発掘できるツールとなって欲しいし、そうでなければならない、そう思います。

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細井 智彦

細井智彦事務所代表
転職コンサルタント

大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。
・12万名以上が受講する面接力向上セミナーを立ち上げる
・採用企業の面接官向け研修・講義を開発、これまで人事担当から経営者まで350社、面接官3000人以上にアドバイスを実施。
現在は独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。
著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数

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