ガラパゴス化する「面接試験」

<細井智彦> 細井智彦事務所代表 転職コンサルタント 大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。企画し立ち上げた面接力向上セミナーは12万名以上が受講する人気セミナーとして現在も実施中。採用企業の面接官向けにも研修・講義を開発し、人事担当から経営者まで、260社、面接官3000人以上にアドバイスをしている。2016年3月に独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数


ガラパゴス化する「面接試験」

みなさんは面接会場というとどんな場所を想像しますか?例えば、もし自分が映画監督になってこれから関西の大手メーカーの面接シーンを撮影するとしたら、どんなセットにしますか?あと「面接官」にはどんなキャラクターをもってきますか?まず、場所。すこし広めの教室のようなスペースの一角に、椅子を置き、そこから数メートル離れたところに机を並べて、面接官を数名並ばせる。というようなイメージでしょうか。テレビで面接シーン、というとだいたいこんな絵がお決まりになっていますよね。
そして、面接官。もしふたり起用するなら、一人はなんかちょっと意地悪で疑い深そうなキャラを人事に置いて、人の話を聞く時に眼鏡の縁を触ってもらうような演技をしてもらい、もうひとりは、恰幅のよいいかにも黒塗りのレクサスが似合いそうな役員風のおっさんをキャスティングするのではないでしょうか。間違っても温水洋一は選ばないと思います。

おおむね「面接」といえばこんな世界観がまだ一般的ではないでしょうか。しかし、いま現在の転職者の意識や動向を鑑みるとこんな旧来型の面接会場の世界観のままで選考を進めるということに、とても違和感が生じており、お仕事でおじゃまする企業の面接環境が、こういったアイドルのオーディション会場のようになっていたら、即刻直しましょうと提案します。現状を否定し、未来を創る!変革だ!なんて謳っている会社が、こんな面接をしてたら、だれも信じてくれませんよ、と言いながら。このままだと面接はガラパゴス化していく、いやもうすでにしつつある、と感じてしまいます。

また、面接対策するアドバイザーが「志望理由」に対して、紹介会社から勧められて応募手続きをとった人に「面接で『転職エージェントが熱心に勧めるので応募しました!』なんて口が裂けても言わないでくださいね。企業から、自分の意志で入社したいという意欲がない、と思われNGになります。自分なりの志望理由を考えて言ってください。」とアドバイスすることはよく行われます。けど、勧められて応募してみた、と話しては本当にだめなのでしょうか。ろくに企業を研究する間もなく、熱心なスカウトメールが来て説明会に出ただけなのに、嘘をついてまで、嘘くさいようなぜひ入社したい、というようなことを話したほうがよいでしょうか。私の答えはNOです。ただ、現実は応募する候補者の実態がわからない、あるいはわかっていても理解をせず無視し、いまだ志望理由として入社の熱意を面接で求める会社がいまだ多く存在しているので、こういったアドバイスは残念ながら必要なのが現状だというのが悩ましいところです。

こういったオーディションスタイルや、あら捜しのような質問がなぜ、不毛になりつつあるのでしょうか。

それは、応募者⇒入社希望者という前提が崩れつつあるからです。

いままでの面接の世界観はこの応募者=入社希望者である、という前提で設計されています。それが当の応募者の状態が変わってしまっているから、ギャップが生じているのです。いまや「応募者」という言葉自体が実態に即してないのです。私が企業にアドバイスする際には、まず「応募者」という言葉ではなく「候補者」という捉え方に変えるところからお勧めしています。
それでもなんとかオーディション型でも回っているのは、世の中の「面接」の世界観が、まだ古いままで「面接てっこんなもの」という固定概念に救われている。テレビのドラマとかでクルマが走って行く時にブーン!て音が被せられてますが、あれ実際いまハイブリッドやEVだったら、ああはならないです。けどいまだにブーンってやっている。これはクルマが走るときはブッブーがないとクルマらしくないっていう刷り込みが残っているからだと思うのですが、それと同じようなものです。

企業側はまだ候補者との温度のギャップに気づいていない

現在の募集場面では、応募時点で入社したい、という意志は求められていません。むしろ、リファラルやスカウトメールのように、転職そのものもまだ本気でもない状態から出会うことが増えているなかで、それを待つ企業のほうが、相変わらずまるで、入門生を審査する道場主のように待ち構えている、私にはこんな風にみえる会社は未だにたくさんあります。関西の大手メーカーさんも、です。一方でベンチャー企業はすでに立ち上げからリファラル採用を軸にしているところも多く、このようなオーディションスタイルな会社はまずありません。会議室で打合せするような感じか、あるいは社内カフェのようなところで先輩社員との雑談のような形でインタビューを行っているところも少なくありません。だからこのままだと、大手メーカーの面接はガラパゴスのようになってしまいそうだ、と書いたわけです。

それでも、随分変わってきたと思います。例えば社内では「面接」と呼ばず「面談」と呼ぶ、とか、各社さんもそれなりに売り手市場の環境のなかで努力されています。ただ、まだそれは人事部門でのことで、中途採用の場合、人事だけではなく部門のマネジャーも面接官になるのですが、彼ら彼女たちは、まだ道場主みたくなっている人が残っています。それどころか「へんな人を採らんようにせんとあかん!」と気負ってしまい、逆に必要以上に「面接官」を意識して、慎重にふるまってしまわれることすらまだあります。

応募者=入社希望者ではない、というのは、実は昔からそうでした。応募者も選ぶということは当たり前です。ただなぜかそれは無視され続けて、面接では入社の熱意を伝えましょう!というようなアドバイスが行われ、出来レースのような不毛化が進んでしまった。これがいままででした。それがそろそろ限界で企業側もそれに気づいてて、お互いもっと本音でやりたい!と思いはじめている。目の前の候補者はまだ入社しようと思っていないかもしれない、ということを素直に受け入れれば、場所も、面接官も、対話の内容もすべてが簡単に変えられます。これをお読みの採用担当者の方、ガラパゴスにならないように変えてください。

そして、最後に。そういったガラパゴス面接をしているような会社に応募した場合、受けるみなさんはどうすればよいのでしょうか。志望理由を問い詰められたり、企業研究不足で不採用にならないようにするためのワンポイントアドバイスを。企業研究もろくにできないまま、アドバイザーに勧められ選考会に行ったようなときには、その状況をきちんと理解いただけるように面接官にも伝えてください。ただ、ありのままで臨むのではなく、転職を考えるようになったきっかけから、この場に来るに至るまでのストーリーはきちんと話せるように整理しておいてください。部門の方もみなさんが目の前に現れるまでのプロセスを理解していないことがあるので、説明して納得してもらえれば大丈夫です。例えばこんな感じです。

Q「数ある会社のなかでなぜ当社に応募されたのですか」

Q「現職でも活躍されていたら、転職する必要もないのではないですか」

A「はい、おっしゃるとおりまだ転職すべきかどうかは迷いがないわけではありません。そして御社に対しても充分研究する時間もなくこの場に参りました。実は10月に異動となって新しい仕事に変わったのですが、そこで転職というものを現実に考えるようになって、完成品メーカーの求人情報をもらおうと、先週転職エージェントに相談したところ、御社の説明選考会があることを案内されぜひお話をうかがいたいと思って参りました。だから、まだぜひ入社したいという気持ちは固まっておりません。ただ、転職では御社の求人職種である◯◯のような仕事はコストカットだけでなく新しいことにまだまだチャレンジできる技術分野だと思っており、そういう仕事に就きたいと考えております」長くなりましたが、こんな感じです。

候補者と企業の出会い方が変わり、いわゆる絵に書いたような面接シーンは今後どんどんなくなっていくと思われます。面接という言葉もいずれなくなり、インタビューって変わりそうな気がします。そうなるとドラマの面接シーンを演出する人たちも、いままでの採ってやる面接の構図がなくなると、大変になりそうです。

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細井 智彦

細井智彦事務所代表
転職コンサルタント

大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。
・12万名以上が受講する面接力向上セミナーを立ち上げる
・採用企業の面接官向け研修・講義を開発、これまで人事担当から経営者まで350社、面接官3000人以上にアドバイスを実施。
現在は独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。
著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数

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