第二新卒(1)

<細井智彦> 細井智彦事務所代表 転職コンサルタント

大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。企画し立ち上げた面接力向上セミナーは12万名以上が受講する人気セミナーとして現在も実施中。採用企業の面接官向けにも研修・講義を開発し、人事担当から経営者まで、260社、面接官3000人以上にアドバイスをしている。2016年3月に独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数


今回のテーマは「第二新卒」です。2回に分けてお送りします。

そもそも第二新卒ってなに?新卒なの?

「第二新卒」という言葉。いまは普通に使われていますが、誰を指すのかご存知ですか?明確な定義はありませんが、おおむね学校出て最初の就職から3年くらいまでで再就職する人を差し、年齢的には普通25歳くらいまでを表すようです。私は人材業界に30年以上身を置いてきましたが、この言葉は転職や人材紹介がポピュラーになりつつあった昭和期にはまだありませんでした。私のいいかげんな記憶では、おそらく90年前後のバブル期あたりに生まれたような気がします。一応は転職なんだけど、活かせるキャリアもまだないから、キャリア採用というには違和感がある、だから「第二新卒」ってことにして、もう一回お互いに出会うチャンスを設けましょうね、って感じで、でてきたように思います。

第二新卒は新卒なのか中途なのか

現在は、学校卒業後3年以内であれば未就労者は新卒扱いすべし、なんて新しいルールを誰かが唱えはじめているから、ちょっとややこしくなっていますが、「第二新卒」は、名前は新卒でも例外を除いて新卒の就職ではなく、あくまでも転職です。結婚でいえば、初婚ではなく再婚です。話は飛びますが、就職は「縁がある」という表現が用いられるように、よく結婚に例えられます。結婚では離婚したら「バツイチ」と呼ばれます。バツイチ!なんかこの言葉は好きになれません。なんらかの事情やお互いに合わないときに、別れて出直したい、無理にお互い我慢せず出直したほうがよい人はたくさんいそうだから就職に第二新卒があるならこっちにも「第二結婚」があってもいいじゃないか、と思いませんか?結婚の世界観はまだ終身雇用の世界観が残ってて「バツイチ」というと、なんかダメなことをしているようなうしろめたさが漂います。もちろん結婚と就職の倫理観のレベルは大きく異なると思うのですが、「バツイチ」という言葉を自分が使うと心がちょっと汚れてしまいそうに思います。

「バツイチ」感が採用担当を転職理由にこだわらせる

幸い「第二新卒」という言葉のおかげで「バツイチ就職」なんて言われずに済んでいるのかもしれません。けど、意外に腹の中の本心ではいまでも「バツイチ就職」のように思っている採用側の人間も多そうです。「第二新卒って言うけど、要はバツイチってことだよね、バ・ツ・イ・チ!せっかく就職したのに、またなんで辞めるのよ、雇ってくれた会社に元もとらせないまま辞めるなんて、申し訳ないと思わないの」なんてもし、面接でいきなりぶちかまされたら、みなさんなんと答えますか?ということで、往々にして、採用側は第二新卒の人には、新卒のときには絶対に聞かれない、転職理由を気にします。だから企業側だけでなく転職する立場のみなさんも「転職理由」を気にされるわけですね。

自分の居場所はここじゃなさそうだからリセットしたい、という気持ちをお持ちの方は多いのではないでしょうか。しかし、採用する人の根っこにはせっかく就職したのになんですぐに辞めるの、なんか嫌になったとかできないから、逃げてないか、疑います。何らかの事情があったとしてもなかなか信用してくれません。あと会社がブラックだったということを話しても、自分にも問題があるのじゃないか、ついていけなかったのじゃないか、会社の批判ばかりして適応する努力はしたのか、などと、どうしても疑います。それは活動する人もわかっているので、「こんなこと正直に話しても理解されませんよね」とか「どこまで本音を話してもいいのですか?」といった、転職動機のバツイチ的な部分をどう自分のなかで料理して、前を向くか、に腐心されている方が実に多いのです。むしろ採用する側の思いを先回りしすぎて、過剰なまでに気にされると思っている人は多いなあと思います。

企業からみた「第二新卒」

では、本音ではバツイチ感を抱いている会社が、なぜ第二新卒の求人をするのでしょうか?なかなか新卒では思った人が充足できないから第二新卒まで対象を広げる?確かにその一面はあります。

そもそもの話になりますが、新卒採用と中途採用の目的の違いをちょっと聞いてください。高度成長期の日本では大手企業は新卒採用を重視してきました。その大きな理由は「真っ白な人を自社の色に染められるから」です。茹でガエルという例えをご存知でしょうか。カエルを水の入った鍋に入れて火を着けたら、だんだん熱くなってきてもそれに気づかず、我慢ができなくなったときには茹だってしまい手遅れ、というなんとも残酷な例えです。新卒採用のメリットはこの茹でガエルと同じで、他を知らないと、こんなもんなんだろうと、キツイ仕事でも我慢して続けてくれるということを少なからず企業は期待していました。では、そんな大手が新卒採用を重視してきたなかで、なぜ中途採用が活発になったかといえば、技術革新や外資との競合、ネットの台頭などで、いままでのやり方が通用しなくなり新事業への進出の必然が生じたことが大きなターニングポイントになりました。よく「即戦力」を求めると言われるのがこれを指します。で、実際に採用したら既存組織への刺激にもなるし、慢性的な人材不足な状況のなかで中途採用はどんどん一般的になったわけです。

自分色に染められる人は新卒で、外から即戦力を投入し、既存組織に刺激を与えるためには中途採用をしてきた大手メーカー。第二新卒はどっちつかずの「ハンパ」なポジションですね。ハンパな第二新卒は新卒が採れない消去法でのみでしか、採用されるチャンスはないのでしょうか?第二新卒はハンデを背負っての活動しかできないのでしょうか?答えは否。第二新卒者独特の魅力や採用するメリットはちゃんと、あります。

新卒より第二新卒を採用するメリットはあるのか

企業が第二新卒者に抱く懸念は、前職と比較され「前のほうがよかった!」と文句をたれて社内を乱される危険。あと、ちょっといやなことがあったら反射的にすぐ辞めてしまうような辛抱のなさ、です。

実は、ここにこそ第二新卒のメリットがあるのです。前職と比較して文句言われそう、というのは見方を変えれば、前職よりいまの会社のほうがよくなれば、それは新卒よりも納得感のある就職となり長く頑張れることを示しているといえます。◯ヶ月で辞めてしまった、というのも逆に「よくそんなところで◯ヶ月も頑張ったよな」と思われると、それは逆に辛抱強さを証明する材料になり得るのです。

第二新卒が新卒より強みにできることがある

企業が新卒者より第二新卒を評価する点、それはずばり「苦労した経験」と「本気で自分と向き合った経験」です。

ブラック企業にいた人ほど期待される

あるAKB48のOBが「AKBの経験があるから、なんでも乗り越えられると思う!」と何かのインタビューで答えてましたが、まさに、これこそ第二新卒に期待されていることです。例えば、採用する立場で考えてみてください。ある候補者の最初の職場がよく「ブラック企業」といわれる劣悪な労働環境で働かされてきたとします。いままでの環境が自社よりもひどく「あそこに比べたら全然へっちゃら」と候補者が自社の環境を思ってくれたらどうでしょう。実にいい社員になってくれそうだと思いませんか?前職が劣悪で苦労している人は好まれるのです。

新卒より第二新卒は自分と本気で向き合える理由

新卒のときにも本気で自分と向き合って就活してきたと思いますが、新卒と第二新卒では決定的に異なる視点があります。それは「会社」ではなく「仕事」のことを考え抜くという点です。なんだかんだいっても学生さんは「会社」選びの目線で就活します。これはいまの就活がよほどの専門性がない限り、入社してからでないと仕事がわからない、選べない、という構造的な問題をはらんでいるから仕方がありません。だから電気系の学部を出ても、筐体設計に配属されるなんてことも普通にあり、それゆえに早期のうちにリセットしたくなる人が第二新卒として転職活動をするわけですね。第二新卒はあくまで転職として、最初から職種が決まった世界に応募することが多いので、自ずと会社だけでなく、どんな仕事に就きたいか、をあらためて本気で考えることを求められるのです。自分と本気で向き合って出す結論は学生の就活よりも精度があがり、ミスマッチの可能性も低減されるのです。

いい加減な就活でちょっと反省している
ブラック企業に入ってしまった
イメージと違った

なんてこと思っていて、ハンデ感を抱いているとしたら
短い期間でも、
苦労したり、自分と向き合った経験は
学生では体験できない自分の糧になっている
ということを自覚しておきましょう。

次回は、経験の浅い第二新卒が、企業に訴求できることとその方法を中心に書く予定です。

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この記事を書いた人

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細井 智彦

細井智彦事務所代表
転職コンサルタント

大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。
・12万名以上が受講する面接力向上セミナーを立ち上げる
・採用企業の面接官向け研修・講義を開発、これまで人事担当から経営者まで350社、面接官3000人以上にアドバイスを実施。
現在は独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。
著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数

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