スカウトメールとの付き合い方

<細井智彦> 細井智彦事務所代表 転職コンサルタント

大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。企画し立ち上げた面接力向上セミナーは12万名以上が受講する人気セミナーとして現在も実施中。採用企業の面接官向けにも研修・講義を開発し、人事担当から経営者まで、260社、面接官3000人以上にアドバイスをしている。2016年3月に独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数


ジャンクメールのように届くスカウトメール

転職サイトに登録し、エージェントや求人企業からスカウトメールが届くサービスを利用している方は多いのではないでしょうか。いまの転職活動ではポピュラーな方法になったと思います。ただ、いま求人意欲が高いのであまりにたくさん、まるでジャンクメールのように届いて取捨に戸惑っている人もまた少なくないのでは、と思います。今回はこの「スカウトメールとの付き合い方」について、思うことを書きます。

スカウトメールという出会い方は、一昔前なら考えられないことでした。メールがなかったからです。現在のように携帯電話やメールがなかった時代の転職エージェントの仕事はそれはもう大変でした。なんせ、急ぎの連絡も自宅への電話か電報しか手段がないのです。特に寮にいる人への連絡はそれはもう大変で、なにやらスパイ活動のようなちょっとした緊張感を伴っていました。資料を郵送する際、寮におられたら、社名が見えるととんでもないことになるので、社名を暗号化し、かつ寮のポストにすっぽり入る大きさに収めるための工夫なんてこともやりました。あと、そもそも個人の電話がないので、電話も寮の管理人さんに取り次いでもらわないといけません。だから、個人名で電話をするのです。船橋の細井です、という感じです。そして、なかには引き抜きを警戒する会社があって、そんな会社の管理人さんは役割に忠実に、どのようなご関係ですか、なんてチェックしたりするのでそのブロックを突破しなければならないこともありました。ちなみに昔は転職場面だけでなく彼女に電話する際もドキドキものでした。なんせ電話は居間にあるので、まず親が出ます。親ブロックをくぐりぬけなければなりません。しかもコードレスなんてものもないので、親に聞かれたくないから廊下まで電話を引っ張り出して、冬など、白い息吐き凍えながら長々と電話で話したものでした。また、個人の活躍がネットでアップされることもないので、スカウト会社の生命線ともいえる候補者のデータベースを作成するのも大変な労力を要したものです。

スカウトの意味が変化してきた

このような人材紹介の黎明期から現在まで「スカウト」という言葉が使われているのですが、そのニュアンスは随分変わったように思います。黎明期での「スカウト」はヘッドハンティングに近い、あらかじめ候補者をリサーチして、本人の転職意欲があるかどうかに関係なくアプローチをする、という意味合いで用いられていました。現在のプロ野球界で用いられる意味に近いです。翻って現在の「スカウト」の意味合いはどうかというと、本来のハンティング的なものだけではなく、アウトバウンドと呼ばれるプッシュ型DMアプローチまで意味の範囲が広がってきています。特に「スカウトメール」という名称のサービスはほとんど後者の意味合いであり、本来の「スカウト」の意味するサービスはいまでは「ハンティング」と称されることのほうが多い、そうとらえておいたほうが、ここでのスカウト、というものを正しく理解できます。「スカウト」を「興味がある対象者に声をかける」と意訳すれば、昔は転職意志に関係なく声をかける、という意味でしたが、いまは、なんらかの転職意志のある人のデータベースのなかの、該当しそうな候補者に声をかける、つまりデパートのハウスカードのユーザーへの販促DMのしくみと同じような構図のサービスになっているわけです。

スカウトメールとの付き合い方

本来エージェントのセレクト機能が機能していれば、自分に適した情報だけが届く、これが理想ですが、大手は担当アドバイザーが選ばず、機械的にマッチングしたものが自動的に配信されてしまうことも多く、なんでこんな会社の情報が届くのか、と思うような情報も届いてしまいます。ゼロか100かみたいな付き合い方はなかなか悩ましいところですね。ジャンクと間違えるようななかから、自分に有益な情報を引き出すための、私がお勧めするアプローチ方法について3つご案内します。

1:メールソフトの検索機能を使って抽出する。

例えば、「メーカー」「関西」「転勤」「Uターン」「年収」「自動運転」「AI」などのフリーワードを入れて本文検索をかけて抽出するのです。自分の思考が決まっている人にお勧めの方法です。ネットで欲しい情報を検索する感覚ですね。

2:担当コンサルタントに選ばせる

届いた案件のなかからいくつかピックアップしておき、担当コンサルに連絡をとり、自分の候補企業としてそれぞれの勧められるポイントと、担当のお勧めの順番を聞いてみます。担当者のあなたの志向やキャリアの理解度、企業の理解度を図ることもできます。あえて自分なら選ばない企業もいれておき意見を聞くことも参考になると思います。

3:いったん全部並べて接点探しをしてみる。

これが細井のお勧めの方法です。全部は難しければ、あえてまず自分では選ばないだろうな、という会社をいくつか交えて、それらの会社でもし働くと自分がどうなれそうか、と想像してみる、というアプローチです。そうしているうちに、自分の志向も固まりやすく、あとなによりも意外なところに新鮮な出会いのきっかけがみつかるかもしれません。クルマ選びでも音楽でもなんでもいいです。なにか自分の希望に合うものを探しているときには全然ひっかからなかったもののが、なにかのタイミングときっかけで、ふと目の前に現れたとき、突然急に興味がわきだして止まらなくなることないですか?ふと喫茶店で流れてきた曲を聞いて、人が着ているのを見て、好きな人が好きと言ったから、友人が勧めるので・・・・。企業との出会いでも同じようなことが起こります。私がアドバイザーをしていて、いい会社と出会っていただいたあともらってうれしい言葉は「自分ひとりではこの会社と出会うことはきっとなかったと思います」です。DMのなかには、何考えてんねん、と思うような案件もあるかもしれません。イラッとしますよね、けどそんなときこそ、もしここに自分が行ったらどうなるか、ちょっと考えてみようか、なんて見方をしてみてはいかがでしょうか。きっと新しい自分に気付けたり、意外な出会いがあるかもしれませんよ。 スカウトメールは上手く付き合えば有効な方法です。上手に使っていい出会いを!

SNSでシェア

この記事を書いた人

プロフィール写真

細井 智彦

細井智彦事務所代表
転職コンサルタント

大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。
・12万名以上が受講する面接力向上セミナーを立ち上げる
・採用企業の面接官向け研修・講義を開発、これまで人事担当から経営者まで350社、面接官3000人以上にアドバイスを実施。
現在は独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。
著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数

送信中です