企業インタビュー
[ オムロン株式会社 ]
オートメーションの要 をアップデート――オムロン センサ事業部が描く未来

左から
株式会社タイズ 担当コンサルタント 杉山 周平
オムロン株式会社インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 センサ事業部 第1開発部 部長 村田 謙治様
同社同事業部 第2開発部 部長 肥塚 八尋様
同社同事業部 事業部長 三島 行正様
株式会社タイズ 担当コンサルタント 高山 聡
オムロン株式会社は、制御機器事業、電子部品事業、データソリューション事業、ヘルスケア事業、社会システム事業という多岐にわたる事業を展開しています。
制御機器事業(IAB:インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー)では、“オートメーションで人、産業、地球の豊かな未来を創造する”というビジョンのもと、センサやコントローラなどのFAシステム機器、検査装置やロボットなど様々なFA製品を開発・製造しています 。
また独自のコンセプト「i-Automation!」に基づき、熟練の技を機械で再現する「制御進化」、AIで不良や故障を予測する「知能化」、人と機械が安全に協働する「新たな協調」を追求しています。制御機器・FAシステムを通じて未来のモノづくり、未来の工場を創出する新しい価値を提供しています。
今回はそんな制御機器事業の商品事業本部 センサ事業部のお三方に、オムロンのセンサの強みや開発に携わるやりがい、センサ事業部の風土について伺いました。
01. ご経歴と現在の業務について

左から肥塚様、三島様、村田様
――まずは自己紹介をお願いいたします。
三島様:1998年に入社し、最初の10年間は国内営業を担当。その後、北米で3年間営業を経験しました。帰国後はパワーサプライのプロダクトマネージャーを5年、サービス事業の立ち上げに約3年携わったのち、センサ事業部の企画部門へ異動。センサ事業部では画像事業を担当し、現在は事業部長として幅広い製品群を統括しています。
村田様:2008年に入社し、工場の生産技術部門でライン設計や設備立ち上げを約3年間担当しました。その後、 社内の人財公募制度を活用し、汎用センサを開発する部門へ異動し、4年間で光系の汎用センサのメカ設計の担当からテーマリーダーまでを経験しました。
その後、 中国拠点にあるR&Dでセンサの開発指導からマネジメントを経験。帰国後は 今の第1開発部の課長としてファイバセンサのコストパフォーマンスが高い新商品開発を行い、現在は第1開発部の部門長を務めています。
肥塚様:2004年に入社し、本社の新規事業創出部門 で物流向けRFIDのソフトウェア開発を約5年間担当しました。その間、ソフトチームのリーダーも経験。その後2010年にIABへ異動し、FA向けRFIDのテーマリーダーとして6〜7件の案件を担当しました。
ソフト開発からは離れましたが、工場でのものづくり全体やメカ設計・エレキ設計などを幅広く学ぶ機会となり、企画から開発、量産までの一連の流れを経験できました。マネージャーになってからはRFID以外にコードリーダーやレーザーマーカーを担当し、買収先との統合や画像商品の企画にも携わりました。現在は第2開発部の部門長を務めています。
02. IABにおけるセンサ事業部とは?

――センサ事業部は社内でどんな位置づけですか?
三島様:センサ事業部は、お客様のさまざまな課題を「つなげて解決する」役割を担っています。当社の営業としても新規のお客様に対して、初めに販売する商材がセンサであることが多く、ある種「オムロンの顔」となる商材であるかと思います。また商品ラインナップが豊富なので、状況に応じて最適な提案ができるのが強みです。
技術者にとっても挑戦の場が多く、自分の技術を幅広く試せる環境があります。製品ラインナップの幅が大きく、商品によって生産数が大きい分、オムロン全体の安定収益を支える重要な事業でもあります。顧客の裾野が広く市場からの期待も大きいため、常に商品力を強化し、課題解決をリードし続ける存在でありたいと考えています。
――センサ事業部の体制を教えてください。
三島様:センサ事業部には6つの主要組織があります。2つの開発部門に加え、汎用センサ企画部門、アプリセンサ企画部門、事業計画部門、そして関係会社であるオムロンセンテック(産業用カメラメーカー)です。領域ごとに企画部門を配置し、開発と密接に連携しています。
村田様:第1開発部は企画部門との連携が密で、事業戦略を共に練りながら価値を届けられると確信しながら開発に臨める点が強みです。担当領域は汎用センサ(光電、近接、フォトマイクロ、ファイバーセンサなど)とアプリセンサ(変位、高精度計測、環境センサなど)。戦略としては、売上数百億円超の汎用事業を強化し、既存機種のプラットフォーム化と新機能の追加で“守りと攻め”を両立させ、短いサイクルで市場に投入していきます。対象市場は日本・アジア・欧州・北米、対象業界は自動車・半導体・食品・医薬・物流と幅広いです。
肥塚様:第2開発部は技術領域が広く、グローバル連携が強みです。AI搭載画像センサや3Dロボットビジョン、RFIDやレーザスキャナなど技術領域も広く、高機能な製品を扱います。AIエンジニアやアナログ技術・電波技術など様々な専門人財がそろい、北米企業や国内カメラメーカーとの共同開発も行っています。技術好きのメンバーが多く、有志による勉強会も活発で、育成と技術強化が両立している部署です。
――人数規模やテーマの走らせ方について教えてください。
三島様:センサ事業部全体で数百名規模の大きな組織になっています。その中でも開発人員が一番大きな割合を占めていて、少数精鋭部隊になりますが、企画部門や事業計画部門にも数十名規模のメンバーがいます。また、オムロンセンテックにも数十名が所属しています。
村田様:第1開発部ではゼロベースの大規模開発になると10名以上で1つのテーマを推進し、小さなテーマでは数名規模のテーマもあり、顧客起点からの事業戦略の実行テーマを複数走らせています。開発テーマ特性に応じて最適なメンバーを部門内で組み替えながら実行しています。また、将来に向けた技術は京阪奈にある技術本部と連携して技術の作り込みを行うこともあります。
肥塚様:第2開発部では、比較的画像センサの製品規模が大きいため、他の商品開発と比較するとプロジェクトの参画人数が大きくなる傾向にあります。ただし、プロジェクトの目的によっては小規模なケースもありますので、常に顧客起点でプロジェクトの優先順位を判断し、必要な人員を部門内で組み替えながら実行しています。場合によっては村田さんの部門や京阪奈にある技術本部のメンバーも加えて開発を実行するケースもあります。
――オムロンのセンサ製品に対してお客様が評価するポイントは何だと思われますか?
三島様:まずは技術力です。「これまで不可能だった検出を可能にする」センシング技術が基盤にあります。
加えて、人手不足が進む現場では「使いやすさ」「導入のしやすさ」「メンテナンス性」も重視されます。開発者が実際に現場を観察し、その気づきを使い勝手の良さに反映できる体制が評価されていると感じます。
村田様:汎用センサでもアプリセンサでも共通する価値は「コストパフォーマンス」と「耐環境性」です。汎用センサは現場で大量に使われるため価格性能比が求められますし、業種の異なる様々な過酷な環境でも稼働する耐久性が不可欠です。それらの要求を満たす材料の知見や生産技術と連携した組立・工法技術も私たちの強みです。
肥塚様:画像系ではAIによる欠陥検出技術やUI改善など、最先端技術を積極的に取り入れています。
RFID製品も、耐環境性や材料技術を高めるために社員同士で協力して開発を進めてきました。12年前の製品をベースに、初めてデザインセンターと外観設計を共同で実施。LEDを四方向に配置し、どの角度からでも表示が見えるように工夫しました。工場から「作りにくい」との声もありましたが、ユーザビリティを優先して進めた結果、お客様からの評判が高まり、競合他社が同様のデザインを取り入れるほどの影響を与えました。
――最終的にどのような形状に決定したのですか?
肥塚様:ユーザビリティとオムロン全体の統一デザインを意識し、「えぐる」ような形状に決定しました。ただ、その分サイズが小さくなり、RF性能(通信距離)が短くなる課題が生じました。そこでエレキ技術者が基板設計や回路構成を見直し、小型ながら目標仕様を満たす設計に仕上げてくれました。工場側も納得し、「これでいこう」と合意に至りました。
村田様:私たちの開発スタイルの特徴は、機能ごとに分断せず、機構・回路・ソフトが密に連携しながら進めることです。各パートで性能面のトレードオフを徹底的に議論し、全体最適を目指すことで、小型であっても最大限のパフォーマンスを発揮できる設計が実現できています。


センサ事業部で開発を行うさまざまなセンサ
03. ものづくりにおける考え方や今後の開発投資戦略について

――センサ事業部のモノづくりにおいてどのようなことを重視されていらっしゃいますか?
三島様:我々の中では「顧客起点」を強く意識しています。24年4月~25年9月まで行っていた構造改革前はプロダクトアウト寄りの開発となることもありましたが、構造改革をきっかけにこれまで以上に顧客起点から開発を進める体制へと変わりました。開発メンバーも現場に出向き、課題を自分の目で掴み、使いやすさを確認する文化が根付いています。
――実際に三島様も企画部門に在籍していた時も感じていらっしゃいましたか?
三島様:はい、私が担当していたパワーサプライを欧州市場向けに商品企画した際、提案した製品に対して現地から「これでは売れない」と厳しい指摘を受けました。その悔しさで帰国の飛行機の中で眠れなかったことを覚えています。開発と何度も議論を重ね、市場ニーズに合った商品企画に修正した結果、市場から高く評価していただける結果に繋がりました。
「作りたいもの」と「市場の求めるもの」にズレがあるとき、考え方を切り替えて市場に合わせていく――その難しさと面白さを実感した経験です。
村田様:汎用センサもアプリセンサでも、マーケティング段階から開発者が現場に入り、企画と仕様を一緒に議論します。現場を見る文化が昔からあるのは、他社との差別化につながる強みの一つだと思います。
肥塚様:画像系でも同様に、開発者が現場でお客様と直接対話をしながら仕様を詰める文化が根付いており、お客様からヒアリングした要望を直接製品に反映しています。
三島様:センサは製造現場で「最初に検討される」ことが多く、現場接点が豊富です。その分、現場起点の濃度が高いですね。単体では足りないときに自社内の他製品と組み合わせ、トータルソリューションとして提案し、センサ商品がリード役を担うケースも増えています。
――今後の開発投資戦略について教えてください。
三島様:センサ事業はIABの中でも売上比率が高く、重要セグメントで長年安定はしていたものの、構造改革も踏まえて「価値がまだ十分に届いていない」、継続的に投資すべき領域だと再認識されました。
村田様:20年以上前に出した製品が今もお客様に多くご使用いただいていますが、顧客への価値提供が弱まってきていることが分かりました。そのため、良い商品を出し続けるには継続的な投資が欠かせないという認識に変わり、積極的に開発投資を行い、大型プロジェクトも進んでいます。今も開発投資を続けています。
三島様:直近でも「高感度TOFレーザセンサ」「レーザ変位センサ」「RFIDのリニューアル」「欠陥検出AI」「超高速コードリーダー」など新製品を次々投入し、社内外に勢いを感じてもらえていると思います。
04. センサ事業部で働く魅力とは?技術者としての成長機会と組織文化について
―― 若手の技術者が育つため、どのような仕組みづくりや取り組みを行っていらっしゃるのでしょうか?
村田様:私の部署では小規模なものづくりが多いため、各パートが密に連携する必要があります。そのため、以下のプロジェクトマネジメントの仕組みを運用しています。
| クリティカルチェーンプロジェクトマネジメント | プロジェクト全体の進捗を可視化し、週1回タスクを更新して課題や遅延を早期発見 |
| タスクボード | 各パートがタスクを1週間単位に分解し、毎日のショートミーティングで進捗や課題を確認 |
| リスクミーティング | 週1回、部門を越えてリスクを洗い出し点数化。個人に抱え込ませず、チームで対策を検討。 |
こうした仕組みによって「問題は個人で抱え込まず、チームで共有・解決する」という文化が根づいています。意思決定は各パートリーダーやテーマリーダーを通してマネジメント層が行います。
肥塚様:加えて、毎週のプロジェクトミーティングで進捗と課題を確認し、マネージャーが必要に応じてリソースを追加しています。センサBU全体でも、開発と企画が情報を共有する場を設け、商品セグメントごとに頻度を調整しています。
三島様:風通しは非常に良いですね。役職に関係なく率直に意見が出ますし、「Bad News First(悪いニュースは先に)」をモットーに、トラブルや遅延もすぐに共有して全員で対応します。そのため、個人でプレッシャーを抱え込むことは少ないです。
村田様:リスクをマネージャーが引き受ける体制にしたことで、若手などが安心して挑戦できる環境が整いました。
――そのような文化はどのようにして生まれたのでしょうか?
村田様:背景には、2020年以前に開発課題が多発していた時期があります。当時は開発計画遅延が常態化し、営業からの不満も大きかったですね。マネジメントも属人的で、担当者がリスクを抱え込み、新しい挑戦がしにくい環境でした。
そこで「安心して挑戦できる環境」をつくるために以下を改革しました。
- プロジェクト管理の強化:状況を全員に可視化。
- リスク管理の強化:リスクの責任を個人ではなく、プロジェクトリーダーやマネージャーが持つ体制に。
短期間で実現したわけではなく、成功事例を積み重ねながら数年かけて部門全体に浸透させました。
三島様:さらに、両部長が開発出身で現場の苦労を理解してくれることも大きいです。トップが技術を理解し、現場にフィードバックしてくれるからこそ、この文化が根づいたのだと思います。

――開発力の源泉は、プロジェクト管理以外に何かありますか?
村田様:もちろんプロジェクトマネジメントで後戻りを減らし、生産性を高めてきましたが、核はやはり「技術」です。技術は育成に時間がかかるため、今後必要な技術を特定して早期に技術蓄積し、次の商品に横展開することが大切です。例えば耐環境材料やレーザー接合の技術は、一度確立すれば別製品にも応用できます。
また、大量生産を前提とすると市販部品だけでは性能とコストの両立が難しい場合があります。そのためサプライヤーと協力し、カスタムICや専用部品を開発することで性能とコストのバランスを取っています。こうした先行投資をロードマップに組み込み、発売時期に合わせて効率的に製品を出せる体制を整えています。
さらにプラットフォーム設計を重視し、共通化できる部分は共通化、必要な部分だけ個別開発することで、派生製品をスピーディーに市場投入しています。
肥塚様:技術に加え、人材育成も柱です。若手に早めにパートリーダーやプロジェクトリーダーを任せ、実際のプロジェクトを運営させます。技術好きな社員が多く、会社としても毎年の育成プログラムを組んで計画的に実施しています。加えて、社内の技術に明るいメンバーが自主的に勉強会を開催する文化が根づいており、特に画像処理やAI分野では、若手~中堅向けに有志を募った勉強会が継続的に行われています。組織主導と自発的な学習が両輪で回る、学びの活発な環境が特徴ですね。
また、技術を深める道も、リーダーとして全体を見渡す道も、どちらも選べる環境です。
三島様:このような風土はセンサ事業部だけではありません。オムロン全体として「現場に寄り添う」「社会に貢献する」といった姿勢が自然に根付いています。
私たちは、開発者が担当製品を「My Baby」として大切に育てるだけでなく、営業や販売店、お客様にも「自分たちの製品だ」と感じていただける「Our Baby」の状態を目指しています。開発過程では生みの苦しみもありますが、デザインの印字の仕方など設計の細かいところまで、ひとつずつ丁寧にこだわって仕上げています。そうして完成した製品は、メンバーが誇りを持って熱く語ってくれる存在であり、“みんなの宝物”になっています。
05. 求める人物像について

――キャリアパスは本人の意思優先ですか?それとも会社側が決めるのでしょうか?
村田様:基本は、本人の希望と組織のニーズをすり合わせて進めます。年1回のキャリア面談に加え、課長と1対1で月1回「CDP(キャリア開発プラン)」を確認しながら、「次にどんなチャレンジをするか」「どうステップアップするか」を話し合います。
本人の希望と組織の要望が大きくズレる場合も、希望を尊重しつつ一緒にキャリアの道を考えます。オムロン全体で多様な仕事があるので、部門内に限らず会社全体を見据えたキャリア設計が可能です。
――採用では「できること」と「やりたいこと」のどちらを重視しますか?
村田様:若手の場合は「やりたいこと」を重視することが多いです。例えばソフト担当が「エレキにも挑戦したい」と希望すれば、小さなテーマを任せてサポートします。
一方、中堅やベテランでは、これまでの経験やスキル(=できること)を事業でどう活かせるかを重視します。
肥塚様:つまり、年齢やキャリアに応じて「やりたいこと」と「できること」のバランスを調整していくイメージですね。
――海外拠点でのキャリアはありますか?
三島様:あります。出張ベースで関わることも多いですし、北米や中国に開発拠点があり、現地メンバーと共に企画・開発を進める体制が整っています。
各エリアのニーズを吸い上げるプロダクトマーケティングの仕組みがあるため、グローバルに関わるチャンスは十分にあります。
――どんな人に来てほしいですか?
肥塚様:まずはオムロンやセンサ事業に興味を持っていただける方です。事前に情報を調べ、「ここで何をしたいか」を明確にして応募いただけると嬉しいですね。小さな動機でも構いません。「この領域に関わりたい」という志を持っている方が理想です。
村田様:求める人物像は大きく3つあります。
- 常にお客様や事業を意識して開発に取り組みたい人。
- チームでのコミュニケーションを大切にして進められる人。
- 「ものづくり」や「現場」が好きな人。
こういう方が最も活躍できる場があります。
三島様:加えて、オムロンはグローバルに事業を展開しているので、地域ごとのニーズやお客様の違いを理解しつつ、グローバル視点でものづくりに関われるマインドも求めています。
課題解決は一人ではできません。部門を越えてコミュニケーションを取り、オムロン全体の強みを活かして新しい価値を生み出せる人に来ていただきたいですね。
センサ事業部の両開発部門ともセンサに興味を持って、何にチャレンジしたいか・何をやりたいかを表出いただける人を望んでいます。是非一緒に新しい顧客価値に繋がる開発を行っていきたいので是非応募にもチャレンジしていただきたいと思います。