企業インタビュー
[ ヤマハ発動機株式会社 ]
車体×エンジン、設計×実験──ヤマハ発動機が四位一体で挑む「人機官能」

左から
ヤマハ発動機株式会社 パワートレイン開発本部 プロダクト開発統括部 第1PT実験部 ST−PT実験5グループ 榛地 一剛様
ヤマハ発動機株式会社 モーターサイクル車両開発本部 MC車両開発統括部 第1車両実験部 ON−OFFグループ グループリーダー 中村 元哉様
ヤマハ発動機株式会社 パワートレイン開発本部 プロダクト開発統括部 第1PT設計部 ST−PT設計2グループ 田中 大輔様
ヤマハ発動機株式会社 モーターサイクル車両開発本部 MC車両開発統括部 SV開発部 OV設計5グループ グループリーダー 木村 裕亮様
株式会社タイズ 担当コンサルタント 安達 篤史
株式会社タイズ 担当コンサルタント 竹内 一心
株式会社タイズ 担当コンサルタント 田村 彩奈
※所属・役職および組織名称は、取材当時の情報に基づいています。
ヤマハ発動機株式会社は、二輪車を主軸としたランドモビリティ事業に加えて、マリン事業やロボティクス事業、アウトドアランドビークル事業、さらにはファイナンス事業など、多軸に事業を展開しています。
その中で、モーターサイクル車両開発本部は車体設計を、パワートレイン開発本部はエンジン設計を担い、それぞれの領域に設計部と実験部が存在します。
今回は、車体設計・車体実験、エンジン設計・エンジン実験に携わる4名の方に、設計と実験が一体となって進めるものづくりの現場や、車体設計とエンジン設計がどのように関わり合っているのか、そして“ヤマハらしさ”とも言える作り込みへのこだわりについて、お話を伺いました。
01. 現在の仕事と、ヤマハ発動機との出会い

――所属部署とお仕事内容、そして入社のきっかけをお聞かせください。
木村様:SV開発部OV設計5グループに所属し、中南米向け新機種モーターサイクルのプロジェクトリーダーを担当しています。
私は中途入社で、前職は四輪のエンジニアを務めていました。実は新卒の時点でもヤマハ発動機に入りたいと考えていましたが、当時は就職氷河期で、結果的に別の選択をしました。それでも、ヤマハ発動機で働きたいという思いは変わらず、中途採用では他社を受けずに選考に臨みました。採用いただいて、夢が叶ったと感じました。
中村様:第1車両実験部ON-OFFグループに所属し、デュアルパーパスカテゴリーの走行実験を担当するグループでグループマネージャーを務めています。
父の影響で幼い頃からバイクに触れてきました。その延長で作る側になりたいと思うようになり、ご縁があって入社しました。
田中様:第1PT設計部ST-PT設計2グループで、量産機種のエンジン設計に携わっています。現在は新機種のエンジン設計プロジェクトチーフを担当しています。
大学生の頃にバイクに出会い、「バイクに関わる仕事がしたい」と思ったのが原点です。他のバイクメーカーも検討する中で、第一印象でヤマハ発動機が一番楽しそうだと感じました。その印象は入社後も変わっていません。
榛地様:第1PT実験部ST-PT実験5グループに所属し、インド向け新機種のエンジン実験のチーフを担当しています。
就職活動では四輪メーカーも検討しましたが、説明会の内容にあまり心が動きませんでした。一方、ヤマハ発動機の説明会で最初に出てきた言葉が“感動”。それが強く印象に残り、趣味性の高いところに本気で力を入れているのが楽しそうだと感じ、志望しました。
02. 中途×新卒が語る、立場を問わず「任される」裁量と信頼の風土

――中途入社の方は入社後に感じた魅力を、新卒入社の方は「ヤマハらしさ」を教えてください。
木村様:私は中途入社ですが、前職の四輪メーカーは分業が細かく、個人の裁量が限定されがちでした。それに対してヤマハ発動機は裁量の幅が広く、最初は戸惑いましたが、今は「ここまで任せてもらえるんだ」とむしろ楽しめています。開発担当領域外のことにも主体的に関われる風土が魅力だと思います。
中村様:私は新卒で入社しました。二輪は規模が比較的小さい分、セクションを分けすぎると仕事が回らない面があります。だからこそ、立場を超えて協力して進めるスタイルが根づいていると感じます。
良いオートバイを作りたいという共通のゴールに向けて、同じ目線で意見を出せるところがヤマハらしさだと思います。
田中様:私も新卒入社になります。趣味性の高い製品が多いので、遊び心のある人が多いですね。一方で任される場面も多く、信頼の上で比較的自由に挑戦させてもらえている感覚があります。
榛地様:新卒で入社してすぐ、オールニューモデルの性能担当を任されました。最初は不安もありましたが、必要なときにフォローしてくれる雰囲気があり、前向きに取り組めました。
――中村様は、他社のバイクと比較する立場から見て、どのように感じていますか?
中村様:開発の過程では、常に競合車との比較を行っていますが、メーカーごとに思想や個性があり、見た目や乗り味から「そのメーカーらしさ」を感じることが多いですね。
その中で、ヤマハ発動機のバイクは、良くも悪くも時間とコストをかけて丁寧に作り込んでいる。これは他社を否定するものではなく、私たちの強みとして自信を持って言える点です。その価値はお客様にも伝わっていると感じていますし、これからも大切にしていきたいです。
03. 地域の違いを前提にしたモーターサイクル開発

――世界各国向けの製品を開発する中で、国や地域ごとの違い、求められる要件について教えてください。
木村様:私のキャリアは、インドやASEAN(東南アジア)、中南米向けモデルが中心で、正直なところ先進国市場にはあまり詳しくありませんでした。昨年、欧州向けモデルのプロジェクトチーフを担当し、初めて現地調査のために出張したのですが、そこで強く感じたのが、外観品質やデザインに対する「良い」「美しい」の基準の違いです。
同じヨーロッパの中でも国ごとに好みが大きく異なり、それぞれの要求に応えていく難しさを実感しました。
――エンジン面では、環境条件による仕様の違いなどはあるのでしょうか?
榛地様:あります。東南アジアやインド向けでは、高温多湿といった過酷な環境条件が前提になります。
加えて、使われ方の幅も広いです。高回転・高出力を求めるケースもあれば、日常使いで低回転域の力強さが重視されることもあります。そうした環境や用途を踏まえたうえで、評価条件を設定しています。
04. 設計と実験が一体で磨き上げる、“人機官能”のものづくり

――皆さん、同じ製品の開発に携わったご経験があると伺いました。設計部と実験部は、当時どのように関わっていたのでしょうか?
木村様:10年ほど前に担当した、YZF-R15の東南アジア・インド向けモデルですね。スーパースポーツ系モデルという位置づけではありますが、実際にはコミューターとして使われるケースが多く、インドでは週7日タンデムで使われることもあります。
設計部としては軽量化やコストダウンを進めたい。一方で、ヤマハ発動機として“人機官能”※を重視しているので、実験部から乗り味が良くないと指摘を受けることもありました。最終的には自分たちも実際に乗って理解し、対策を重ねながら作り込んでいきました。
中村様:最初は、先進国向けモデルとの違いに戸惑う部分もありましたが、現地出張やテストを重ねる中で感覚を合わせ、設計部と密にコミュニケーションを取りながら進めました。 複数モデルを並行して開発していたこともあり、ミスコミュニケーションが起きる場面もありましたが、チーム全体でマネジメントしながら乗り越えていたと思います。
田中様:排気系の仕様変更では、ドライバビリティへの影響を確認するために、夕方まで中村に評価をやってもらい、その結果をその日の夜まで議論したこともありました。“人機官能”を軸に、設計部と実験部が一体となって作り込んだ、印象に残っているプロジェクトです。
木村様:車体側では、アルミ製スイングアームの内部リブをやすりで削る仕様を、実験担当から提案されたことがありました。強度設計のセオリーから見ると理屈に合わない提案でしたが、実験担当の意見にリスペクトを持って採用し、最終的に製品化しています。
シミュレーション技術も進化してはいますが、理論通りに作っても、実際に乗るとイメージと違うことは少なくありません。だからこそ、プロフェッショナルライダーの意見を最大限尊重しながら作り込むことを大切にしています。
――エンジン領域でも、設計側と評価側の間で同じようなやり取りはありましたか?
榛地様:ありました。YZF-R15では当時、クイックシフトを新規採用することになり、シフトフィーリングを一から作り込んだんです。シフトの硬さやストローク、入りやすさ・抜けやすさといった要素を整理したうえで、「このモデルなら、こういう方向性が合う」という提案を実験側から出しました。ボディ実験担当とも連携しながら評価を進め、その結果をエンジン設計担当や車体設計担当にフィードバックして、官能評価を仕様に落とし込んでいきました。
ホワイトボードに良い点・悪い点を書き出して整理し、設計側と議論を重ねた結果、実際の採用につながりました。
――官能的な要素を数値化するのは難しいと思いますが、意見がぶつかることはありませんか?
木村様:もちろんあります。ただ、最終的なゴールのイメージは共有できているので、議論は基本的に前向きです。ゴールに向かって、お互いに高め合いながら作り込んでいる感覚ですね。
――意見がぶつかった場合、最終的には皆さんの合意を得て進めていくのでしょうか?
木村様:そうですね。私がプロジェクトリーダーとして特に意識しているのが、「腹落ち感のある開発」です。
納得しないまま進めてしまうと、モチベーションが上がらなかったり、良い点を拾い切れなかったりする。その結果、本来なら提供できたはずの価値を、お客様に届けられなくなるかもしれません。だからこそ、仕様決めも進め方も、腹落ち感を大切にしています。
――他社では、実験や評価が「設計の下流」と見られることもあると聞きますが、御社では対等に意見を言い合っている感覚はありますか?
木村様:「上か下か」という関係ではありませんね。設計の初期段階から実験部に入ってもらい、一緒に意見を出しながら進めているので、後工程という感覚はほとんどありません。ほぼ同時並行で進めています。
中村様:企画段階から、実験部の意見が入ることも珍しくありません。企画、設計、実験といった区切りではなく、各部門の代表がプロジェクトチームに入り、同じチームとして議論するスタイルです。
田中様:エンジン領域では、評価という立場上、後工程に見えるかもしれませんが、仕様検討の段階で実験担当が提案を行い、それを設計に反映するケースも多いです。
例えば、今榛地と取り組んでいる新規案件では、吸気の仕様を変更した試作車を実験担当が用意してくれて、実際に乗ったうえで、そこから設計としてどうまとめるかを考える、という流れがありました。
木村様:以前、企画部から「商品企画の段階でも、実験部の意見が欲しい」と言われたことがあります。お客様の声をそのまま形にするだけでは、“予想を一歩超える感動”には届かない。だからこそ、お客様が感じていることを社内で通じる言葉や指標に変換し、「期待を超えるなら、こうした方がいい」と提案できる存在が必要になります。
実際にモノに最も触れている実験部こそが、それを担える。そういう意味でも、実験部は上流から開発に関わっていると言えると思います。
そして、ヤマハ発動機のモーターサイクル開発に携わる方々は、やはりバイク好きが多い印象ですね。もちろん開発全員が趣味もバイク、というわけではありませんが、製品に強い情熱を持ち、前向きな視点で議論し、「もっと良くしたい」と自ら上流に踏み込んでいく。そんな主体性を、日々の仕事の中で強く感じています。
――車体設計側とエンジン設計側の間で、意見を出し合うことはあるのでしょうか?
木村様:あります。基本的に、各機能の専門部署を信頼して任せていますが、ゴールはあくまで「お客様に良いものを届けること」。その視点で、性能やコストが最適か、要求に合っているか、疑問があれば率直に確認します。
結果として仕様が変わることもあれば、納得してそのまま進めることもあります。エンジン側から車体側へ意見が出ることもあり、遠慮なく話せる関係性ですね。
――中村様からエンジン設計側に意見を伝えることもありますか?
中村様:ありますね。走行実験では、スロットル操作に対するエンジン特性、いわゆるドライバビリティも評価します。その領域はエンジン設計担当・実験担当と密に連携しながら進めています。
エンジンの搭載位置や固定方法ひとつで操縦性が大きく変わるので、常に意見を交わしながら開発しています。
※“人機官能”とは、ヤマハ発動機の独自の開発思想で、「人」と「機械」を高い次元で一体化させることにより、「人」の悦び・興奮をつくりだす技術を指します。
参照:人機官能 | ヤマハ発動機
05. 同じゴールを共有することで生まれる、信頼とリカバー

――失敗談についても教えてください。
田中様:人がやる以上、時にはミスもあります。大事なのは、その後どうリカバーするかです。実験部は「ミスは仕方ない、こっちで何とかするよ」という雰囲気で支えてくれます。こちらも申し訳なさを感じながら必死に対策を考え、再度実験に臨む。その積み重ねが、結果的に良いものづくりにつながっていると感じます。
榛地様:上流から実験担当の意見を反映していく中で、部署を超えて「自分たちのプロジェクト」という意識が生まれます。ミスに対しても、一緒に何とかしようという空気の中でリカバーしていく感覚ですね。
実験側のミスを設計側がフォローしてくれることもあります。チームとして同じ目標に向かっているからこそ、信頼関係が築かれているのだと思います。
木村様:細かいものまで含めると、本当に多くの失敗があります。特に印象に残っているのは、生産準備や販売開始に影響が出るような問題が、立ち上がり直前に発覚するケースです。
私は5年間海外勤務をしていましたが、工場の近くで開発しており、現場に近いからこそ見える課題も多くありました。開発起因の問題の場合、その原因は設計だったり実験だったり様々ですが、最終的には後工程に負担をかけてしまうことになります。「お客様に一刻も早く届ける」という目的に向かって実験部とも連携し前向きに進められるのが、私たちの強みだと思います。
また、国内外で同じ温度感で仕事ができている点からも、会社の文化がグローバルに根付いていると感じます。“人機官能”の重要性を海外メンバーに伝えるのは簡単ではありませんが、学びの場を設けながら、理解の輪を少しずつ広げています。
中村様:走行実験は常に転倒リスクと隣り合わせです。私自身も過去に耐久試験車を転倒させてしまって、テストを中断せざるを得なかったこともあります。
強く反省しましたが、当時のプロジェクトリーダーがすぐに代替車両を手配してくれ、テストを再開できました。その対応には本当に感謝しています。この経験を通じて、プロ意識やリスクへの向き合い方を学びました。今はマネジメントの立場として、リスクを減らす仕組みづくりに取り組んでいます。
ヤマハ発動機は、社員自身がテストライダーとして乗る割合が高い会社だと思います。実験担当だけでなく設計担当にも乗ってもらい、出来映えや乗車感を共有しています。いろんな方に乗ってもらう分リスクも上がりますが、安全とのバランスを取りながら日々試行錯誤しています。
06. 自分で考え、提案し、形にしていく仕事に挑戦したい方へ

――最後に、応募を検討されている方へメッセージをお願いいたします。
木村様:バイクが好きな方には、ぜひ興味を持っていただきたいですね。「趣味と仕事は分けた方がいい」と言われることもありますが、私はこの仕事を20年続けてきて、今は心から「最高だ」と思えています。
前向きに同じ方向を見て開発に向き合える機会が多く、自分のアウトプットが形になり、お客様に届きます。SNSやメディアを通じて反応を感じられるので達成感も大きいです。バイクが好きで、自分の仕事が世の中の役に立っているのを実感したい方がいれば、ぜひ一緒に仕事ができたらと思います。
中村様:モーターサイクル領域の仕事に興味がある方には面白い職場だと思います。実験部は、試作車を評価したり、実際に乗ったりと、物を触って進めることが得意な方には合っていると思います。
一方で、言われたことをこなすだけでは足りません。課題に対してどう改善するかを考え、提案できる力が求められます。そこに面白さを感じる方に、ぜひ来ていただきたいですね。
田中様:ヤマハ発動機は、良い意味で少し特殊な会社です。多様な商材に挑戦すると同時に、時にはそれをやめることもあります。そういう歴史があるからこそ、新しいものに挑戦したい、作ったものをお客様に届けたい、自分で考えて提案したいという方には向いていると思います。やれることは多いので、バイク好きに限らず楽しめる会社だと思います。
榛地様:私はエンジン実験の担当ですが、常に車両全体を意識して仕事をしています。車両全体を見て仕事をしたい方、楽しい二輪車を作りたい方には魅力的な環境です。自分の考えをきちんと説明できれば、プロジェクトに反映される機会もあります。
今は一部分しか見られていなくても、そこを強みと捉えて、徐々に車両全体のことを考えられるようになっていただけたらと思います。ご自身の領域を広げながらヤマハでチャレンジして頂けると嬉しいです。